世界のG1レース/プリークネスステークス のバックアップ(No.3)


歴史と概要

プリークネスステークス(Preakness Stakes)は、毎年5月の第3土曜日にメリーランド州ボルチモアのピムリコ競馬場で開催されるアメリカのGⅠレースである。

ダートの1+3⁄16マイル(9.5ハロン、1.9キロ)で行われる。

米国三冠(トリプルクラウン)の第2戦に設定され、ケンタッキーダービーの2週間後、ベルモントステークスの3週間前に開催される。

 

1873年に初開催されたプリークネスステークスは、元メリーランド州知事がピムリコで行われた第1回ディナー・パーティー・ステークスを制した仔馬にちなんで命名した。

毎年5月の第3土曜日に開催されるプリークネスステークスと、その前日・金曜日に行われる牝馬限定のGⅡレースであるブラックアイドスーザンステークスがある週末は「プリークネス・ウィークエンド」と呼ばれ、毎年恒例となっている。

プリークネスステークスの観客動員数は、馬術競技の中ではケンタッキーダービーに次いで北米第2位を誇っている。

第148回となる2023年も、5月の第3土曜日となる20日に行われた。

 

ケンタッキーダービーが初開催される2年前、ピムリコでは1873年の最初の春競馬で3歳馬のための新しいステークスレース、プリークネスが導入された。

当時のメリーランド州知事オデン・ボウイ(Oden Bowie)は、ピムリコがオープンした日(1870年10月25日)にディナーパーティーステークスを制した、ニュージャージー州ウェインタウンシップのプリークネスにあるミルトン・ホルブルック・サンフォードのプリークネス・スタッドの仔馬プリークネス(Preakness)に敬意を表して、当時の1マイル半(2.41km)のレースをプリークネスと名付けた。

プリークネスという地名は、ネイティブ・アメリカンの名前であるPra-qua-les(「ウズラの森」)に由来すると言われている。

プリークネスがディナーパーティーステークスに勝った後、騎手のビリー・ヘイワード(Billy Hayward)は、審判席から競馬場に張られたワイヤーに吊るされた金貨の入ったシルクの袋をほどいた。

これが、ゴール地点に「ワイヤー(wire)」が導入され、「パース(purse)」賞金が授与されるようになった経緯とされている。

実際には、賞金を意味する「パース」という言葉は1世紀以上も前から使われていた。

 

第1回プリークネスは1873年5月27日に開催され、7頭が出走した。

ジョン・チェンバレン所有の3歳馬サバイバー(Survivor)が、10馬身差の楽勝で2,050ドルの賞金を手にした。

この大差は、2004年にスマーティー・ジョーンズ(Smarty Jones)が11馬身半差で勝つまで最大着差記録として一世紀以上もの間保持された。

 

1890年は、プリークネスステークスはニューヨーク州ブロンクスのモリスパーク競馬場で開催され、このときのプリークネスはハンデ戦で行われ、年齢制限も撤廃された。当年レースを制したのはモンタギュー(Montague)という5歳馬だった。

それから3年間は開催が見送られ、1894年から1908年までの15年間は、ニューヨーク州コニーアイランドのグレイヴゼンド競馬場で開催された。

1909年からはピムリコに開催地が戻り、1910年から1915年は前述のハンディキャップ条件で「プリークネス・ハンディキャップ」として開催された。

 

2009年3月、ピムリコを所有するマグナ・エンターテインメント社が連邦破産法第11章(Chapter-11)の適用を申請し、ステークスが再び移転する可能性が出てきた。

2009年4月13日、メリーランド州議会は、マグナ・エンターテインメントが買い手を見つけられなかった場合、ステークスとピムリコのコースを買い取る計画を承認した。

 

2017年2月、メリーランド州スタジアム局は、ピムリコには2億5000万ドルの改修が必要だとする調査の第一段階を発表した。

同年5月の時点では、この工事への融資に関心を示す者はいなかった。

ピムリコ競馬場とローレルパークのオーナーであるストロナック・グループは、誰かがピムリコの工事に融資しない限り、プリークネスステークスをローレルパークに移すことになるとの意向を示した。

 

2019年10月、ストロナック・グループはボルチモア市およびメリーランド州の騎手を代表する団体と、プリークネスをピムリコで恒久的に開催することで基本合意に達した。

この合意の一環として、ピムリコのグランドスタンドは取り壊され、小規模な建造物に建て替えられることになり、プリークネス・ウィーク中の入場者数を捌くために仮設の観客席が設けられることになった。

2020年5月にメリーランド州議会で承認された「競馬および地域開発法」により、メリーランド州スタジアム公社はストロナック・グループの両競馬場の改修のために3億7500万ドルの債券を発行した。

 

第146回プリークネスステークスは2020年10月3日(土)に開催されたが、これは年明けに発生したCOVID-19の影響によるもので、ケンタッキーダービーから4週間遅れての開催となった。

 

北米三冠(アメリカントリプルクラウン)

プリークネスは前述の通り、北米三冠レースの第2戦である。

北米の三冠レースは、第1レースのケンタッキーダービーの距離が1+1⁄4マイル/10ハロン(約2,000m)、第2レースのプリークネスは1+3⁄16マイル、9+1⁄2ハロン(約1,900m)、第3戦のベルモントステークスは1+1⁄2マイル/12ハロン(約2,400m)で行われ、英国を初めとする所謂「クラシック・シリーズ」とは違い、「徐々に距離が延びる構成」ではない。

また、開催期間の間隔も他のクラシックシリーズと比べて短く、5月~6月の春季間中に決着してしまうのも北米三冠の特徴である。

そのため、チャンピオン馬はその後フランスやアイルランドなどの国際G1に向かうものもあり、複数の国でチャンピオンとなるものも出ている。

 

1932年より以前は、プリークネスがダービーの前に行われたことが11回あり、1917年5月12日と1922年5月13日には、プリークネスとダービーが同日に行われた。

1932年以降から、現在のような開催順となっており、現在、プリークネスは5月の第3土曜日に開催され、ケンタッキーダービーの2週間後、ベルモントステークスの3週間前という期間が設定されている。早い年で5月15日、遅い年で5月21日の開催となるが、2020年はCOVID-19の影響で10月3日の開催となった。

 

1917年、最初のウッドローン盃はプリークネスの勝馬に贈られたが、勝馬はその盃を保持することは許されなかった。

やがて、このトロフィーの半分の大きさの複製が優勝者に贈られ、永久に保管されるようになった。

トロフィーのオリジナルはボルティモア美術館に保管され、毎年、優勝者への贈呈式のために警備員付きでレース会場に持ち込まれる。

 

1940年、優勝馬にメリーランド州の花であるルドベッキア・ヒルタ(通称ブラック・アイド・スーザン)の花輪をかけることが提案された。

しかし、ブラック・アイド・スーザンの開花時期は6月下旬から7月頃であり、レースが行われる5月には間に合わないため、当初は黄色いバイキング・デイジーをブラック・アイド・スーザンに似せてペイントしたものを使っていた。

その後、ペイントされた花は使われなくなり、現在はキク科のバイキング・ポムが使われている。

プリークネスは「ブラック・アイド・スーザンのためのレース(The Run for the Black-Eyed Susans)」と呼ばれることもあるが、ブラック・アイド・スーザンが使われることはない。

 

1918年には上限を超える26頭が出走したため、2回に分けて行われた。現在、レースは14頭立てを上限としている。

距離区分の変遷

プリークネスにはその歴史的変遷によって7つの距離区分が存在する。

1+1⁄2 miles (2.41 km) : 1873–1888, 1890

1+1⁄4 miles (2.01 km) : 1889

1+1⁄16 miles (1.71 km) : 1894–1900, 1908

1 mile 70 yards (1.67 km) : 1901–1907

1 mile (1.61 km) : 1909, 1910

1+1⁄8 miles (1.81 km) : 1911–1924

1+3⁄16 miles (1.91 km) : 1925–

後述の歴代優勝馬のうち、1925年以前の太字で表示されるタイムは、各距離区分におけるレコードとして記録されているものである。

 

牝馬による勝利

プリークネスには過去、6頭の牝馬が勝利した記録が残されている。

  • 1903 - フロカーライン(Flocarline)
  • 1906 - ウィムジカル(Whimsical)
  • 1915 - ライン・メイデン(Rhine Maiden)
  • 1924 - ネリー・モース(Nellie Morse)
  • 2009 - レイチェル・アレクサンドラ(Rachel Alexandra)
  • 2020 - スイス・スカイダイバー(Swiss Skydiver)
 
開催時期競走名場所出走条件馬場/距離関連情報
5月後半プリークネスステークス
(The Run for the Black-Eyed Susans)
アメリカピムリコ3歳ダート
1,900m(中距離)左
米国クラシック三冠
 

歴代優勝馬

優勝馬は(1890年の5歳馬モンタギュー(Montague)を除き)すべて3歳馬であり、牝馬は上述の6頭のため、性齢の表記は省略している。

太字は当年の三冠(トリプルクラウン)を勝利したもの。

回数年次優勝馬タイム
第1回1873Survivor
サバイバー
2:43.00
第2回1874Culpepper
カルペッパー
2:56.50
第3回1875Tom Ochiltree
トム・オカルトリー
2:43.50
第4回1876Shirley
シャーリー
2:44.75
第5回1877Cloverbrook
クローバーブルック
2:45.50
第6回1878Duke of Magenta
デューク・オブ・マジェンタ
2:41.75
第7回1879Harold
ハロルド
2:40.50
第8回1880Grenada
グレナダ
2:40.50
第9回1881Saunterer
サンタラー
2:40.50
第10回1882Vanguard
ヴァンガード
2:44.50
第11回1883Jacobus
ヤコブス
2:42.50
第12回1884Knight of Ellerslie
ナイト・オブ・エラズリー
2:39.50
第13回1885Tecumseh
テカムセ
2:49.00
第14回1886The Bard
ザ・バード
2:45.00
第15回1887Dunboyne
ダンボイン
2:39.50
第16回1888Refund
リファンド
2:49.00
第17回1889Buddhist
ブディスト
2:17.50
第18回1890Montague*
モンタギュー
2:36.75
1891※未開催
1892
1893
第19回1894Assignee
アサイニー
1:49.25
第20回1895Belmar
ベルマー
1:50.50
第21回1896Margrave
マルグレーヴ
1:51.00
第22回1897Paul Kauvar
ポール・カヴァー
1:51.27
第23回1898Sly Fox
スライ・フォックス
1:49.75
第24回1899Half Time
ハーフタイム
1:47.00
第25回1900Hindus
ヒンドゥーズ
1:48.40
第26回1901The Parader
ザ・パレイダー
1:47.20
第27回1902Old England
オールド・イングランド
1:45.80
第28回1903Flocarline
フロカーライン
1:44.80
第29回1904Bryn Mawr
ブリン・マー
1:44.20
第30回1905Cairngorm
ケアンゴーム
1:45.80
第31回1906Whimsical
ウィムジカル
1:45.00
第32回1907Don Enrique
ドン・エンリケ
1:45.40
第33回1908Royal Tourist
ロイヤル・ツーリスト
1:46.40
第34回1909Effendi
エフェンディ
1:39.80
第35回1910Layminster
レイミンスター
1:40.60
第36回1911Watervale
ウォーターヴェール
1:51.00
第37回1912Colonel Holloway
コロネル・ホロウェー
1:56.60
第38回1913Buskin
バスキン
1:53.40
第39回1914Holiday
ホリデー
1:53.80
第40回1915Rhine Maiden
ライン・メイデン
1:58.00
第41回1916Damrosch
ダムロッシュ
1:54.80
第42回1917Kalitan
カリタン
1:54.40
第43回1918-1War Cloud
ウォー・クラウド
1:53.60
第44回1918-2Jack Hare Jr.
ジャック・ヘア・ジュニア
1:53.40
第45回1919Sir Barton
サー・バートン
1:53.00
第46回1920Man o' War
マンノウォー
1:51.60
第47回1921Broomspun
ブルームスパン
1:54.20
第48回1922Pillory
ピロリー
1:51.60
第49回1923Vigil
ヴィジル
1:53.60
第50回1924Nellie Morse
ネリー・モース
1:57.20
第51回1925Coventry
コヴェントリー
1:59.00
第52回1926Display
ディスプレイ
1:59.80
第53回1927Bostonian
ボストニアン
2:01.60
第54回1928Victorian
ヴィクトリアン
2:00.20
第55回1929Dr. Freeland
ドクター・フリーランド
2:01.60
第56回1930Gallant Fox
ギャラント・フォックス
2:00.60
第57回1931Mate
メイト
1:59.00
第58回1932Burgoo King
バーグー・キング
1:59.80
第59回1933Head Play
ヘッド・プレイ
2:02.00
第60回1934High Quest
ハイ・クエスト
1:58.20
第61回1935Omaha
オマハ
1:58.40
第62回1936Bold Venture
ボールド・ヴェンチャー
1:59.00
第63回1937War Admiral
ウォー・アドミラル
1:58.40
第64回1938Dauber
ダウバー
1:59.80
第65回1939Challedon
チャレドン
1:59.80
第66回1940Bimelech
ビメレシュ
1:58.60
第67回1941Whirlaway
ワーラウェイ
1:58.80
第68回1942Alsab
アルサブ
1:57.00
第69回1943Count Fleet
カウント・フリート''
1:57.40
第70回1944Pensive
ペンシヴ
1:59.20
第71回1945Polynesian
ポリネシアン
1:58.80
第72回1946Assault
アサルト
2:01.40
第73回1947Faultless
フォートレス
1:59.00
第74回1948Citation
サイテーション
2:02.40
第75回1949Capot
カポ
1:56.00
第76回1950Hill Prince
ヒル・プリンス
1:59.20
第77回1951Bold
ボールド
1:56.40
第78回1952Blue Man
ブルーマン
1:57.40
第79回1953Native Dancer
ネイティヴ・ダンサー
1:57.80
第80回1954Hasty Road
ヘイスティ・ロード
1:57.40
第81回1955Nashua
ナシュア
1:54.60
第82回1956Fabius
フェイビアス
1:58.40
第83回1957Bold Ruler
ボールド・ルーラー
1:56.20
第84回1958Tim Tam
ティム・タム
1:57.20
第85回1959Royal Orbit
ロイヤル・オービット
1:57.00
第86回1960Bally Ache
バリー・エイチ
1:57.60
第87回1961Carry Back
キャリー・バック
1:57.60
第88回1962Greek Money
グリーク・マネー
1:56.20
第89回1963Candy Spots
キャンディ・スポッツ
1:56.20
第90回1964Northern Dancer
ノーザン・ダンサー
1:56.80
第91回1965Tom Rolfe
トム・ロルフ
1:56.20
第92回1966Kauai King
カウアイ・キング
1:55.40
第93回1967Damascus
ダマスカス
1:55.20
第94回1968Forward Pass
フォワード・パス
1:56.80
第95回1969Majestic Prince
マジェスティック・プリンス
1:55.60
第96回1970Personality
パーソナリティ
1:56.20
第97回1971Canonero Ⅱ
カノネロ/Ⅱ
1:54.00
第98回1972Bee Bee Bee
ビー・ビー・ビー
1:55.60
第99回1973Secretariat
セクレタリアト
1:53.00
第100回1974Little Current
リトル・カレント
1:54.60
第101回1975Master Derby
マスター・ダービー
1:56.40
第102回1976Elocutionist
エロキューショニスト
1:55.00
第103回1977Seattle Slew
シアトル・スルー
1:54.40
第104回1978Affirmed
アファームド
1:54.40
第105回1979Spectacular Bid
スペクタキュラー・ビッド
1:54.20
第106回1980Codex
コーデックス
1:54.20
第107回1981Pleasant Colony
プリザント・コロニー
1:54.60
第108回1982Aloma's Ruler
アロマズルーラー
1:55.40
第109回1983Deputed Testamony
デピューテッド・テスタモニー
1:55.40
第110回1984Gate Dancer
ゲート・ダンサー
1:53.60
第111回1985Tank's Prospect
タンクスプロスペクト
1:53.40
第112回1986Snow Chief
スノー・チーフ
1:54.80
第113回1987Alysheba
アリシェバ
1:55.80
第114回1988Risen Star
リズン・スター
1:56.20
第115回1989Sunday Silence
サンデー・サイレンス
1:53.80
第116回1990Summer Squall
サマー・スコール
1:53.60
第117回1991Hansel
ハンセル
1:54.00
第118回1992Pine Bluff
パイン・ブラフ
1:55.60
第119回1993Prairie Bayou
プレーリー・バイユー
1:56.60
第120回1994Tabasco Cat
タバスコ・キャット
1:56.40
第121回1995Timber Country
ティンバー・カントリー
1:54.40
第122回1996Louis Quatorze
ルイ・キャトルズ
1:53.40
第123回1997Silver Charm
シルバー・チャーム
1:54.80
第124回1998Real Quiet
リアル・クワイエット
1:54.60
第125回1999Charismatic
カリズマティック
1:55.20
第126回2000Red Bullet
レッド・ブレット
1:56.00
第127回2001Point Given
ポイント・ギヴン
1:55.40
第128回2002War Emblem
ウォー・エンブレム
1:56.40
第129回2003Funny Cide
ファニー・サイド
1:55.61
第130回2004Smarty Jones
スマーティ・ジョーンズ
1:55.59
第131回2005Afleet Alex
アフリート・アレックス
1:55.04
第132回2006Bernardini
ベルナルディーニ
1:54.65
第133回2007Curlin
カーリン
1:53.46
第134回2008Big Brown
ビッグ・ブラウン
1:54.86
第135回2009Rachel Alexandra
レイチェル・アレクサンドラ
1:55.08
第136回2010Lookin At Lucky
ルッキン・アット・ラッキー
1:55.47
第137回2011Shackleford
シャックルフォード
1:56.47
第138回2012I'll Have Another
アイル・ハヴ・アナザー
1:55.94
第139回2013Oxbow
オクスボウ
1:57.54
第140回2014California Chrome
カリフォルニア・クローム
1:54.84
第141回2015American Pharoah
アメリカン・ファラオ
1:58.46
第142回2016Exaggerator
エグザグレーター
1:58.31
第143回2017Cloud Computing
クラウド・コンピューティング
1:55.98
第144回2018Justify
ジャスティファイ
1:55.93
第145回2019War of Will
ウォー・オブ・ウィル
1:54.34
第146回2020Swiss Skydiver
スイス・スカイダイバー
1:53.28
第147回2021Rombauer
ロンバウアー
1:53.62
第148回2022Early Voting
アーリー・ヴォーティング
1:54.54
第149回2023National Treasure
ナショナル・トレジャー
1:55.12