アパパネ

Last-modified: Sat, 08 Jul 2023 22:33:46 JST (293d)
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2010年の牝馬三冠馬

アパパネは、父キングカメハメハ、母ソルティビッドを持つ日本の競走馬・繁殖牝馬である。

2010年のトリプルティアラを制し「牝馬三冠」に輝いた。ほか2009年の阪神JF、2011年のヴィクトリアマイルなどに勝利。生涯成績は19戦7勝。

 

2歳(2009年)

7月5日、福島競馬場の新馬戦(芝1800メートル)で蛯名正義が騎乗してデビュー、雨がちな天気で稍重寄りの良馬場の中、単勝3番人気で出走した。

中団から最終コーナーで先頭に接近するも伸びを欠き、勝利したロードシップに5馬身遅れた3着。蛯名は「ボコボコの馬場は合わない」を敗因とし「非力」と指摘していた。

また直後に球節が腫れてしまい、放牧に出された。この間に馬体は成長し、蛯名の言う「非力」は解消、馬体重も増加した。

10月31日、東京競馬場の未勝利戦(芝1600メートル)にて、新馬戦から馬体重を24キログラム増やして参戦。

好位の3番手から直線で先行する2頭の間から抜け出し、2馬身差をつけて初勝利を挙げた。一方で、この飼い葉を実にする筋肉質の身体は、調教のみで調子を上げ切ることが出来ず、仕上げのために前哨戦を叩くことを必要とする面があった。

 

続く11月15日、同じ距離、条件の赤松賞(500万円以下)では、大外16番枠から発走し、8番手の中団から直線では、外側に持ち出した。

蛯名がいざ追い出そうとした際、アパパネの反応があまりに良かったために少しの間制御することができず、外に膨らんでしまった。改めて、外から追い込み、先行する1番人気ブルーミングアレーなどをかわして抜け出した。

以降は、蛯名が手綱を引くほどの余裕がありながら独走し、後方に2馬身半差をつけて先頭で入線。走破タイム1分34秒5は、2歳コースレコードを0秒1上回るレコードタイムでの優勝であった。この走りに、かわされて2着に敗れたブルーミングアレー騎乗の柴田善臣は「一瞬のうちに抜かされた」と証言している。

 

11月26日から栗東トレーニングセンターで調整を行い、阪神ジュベナイルフィリーズ(JpnⅠ)に参戦。

新潟2歳ステークス(JpnⅢ)を制したシンメイフジが3.9倍の1番人気となり、それに次ぐ4.6倍の2番人気に推された。

ゲート入りを嫌い、中に収まるまでに時間を要した。大外枠18番からの発走すると、中団に位置。

人気を集めたアパパネやシンメイフジ、3番人気のタガノエリザベートの作戦が総じて後方からの追い込みであったため、その他はそれらによる馬群の外からの「まくり」を警戒。そのため直線では、先行する人気薄がしきりに外に進路を求めていた。

しかし、アパパネは最終コーナーにて、先行馬が外に広がったことで空いた馬場の内側を突き、追い込みを開始。同じく内に切り替えたアニメイトバイオと馬体を並べながら順位を上げた。

やがてアニメイトバイオを制して先頭となり、先頭で入線。JpnⅠ競走を初勝利、キングカメハメハ産駒にとっても初のGⅠ級タイトルであった。

 

この後、同じくキングカメハメハ産駒であるローズキングダムが朝日杯FSを勝利し、キングカメハメハは史上初の「同一年両2歳GⅠ制覇」を達成。

さらにアパパネとローズキングダムの2頭は「JRA賞最優秀2歳牡馬・牝馬」に選出され、テスコボーイ以来35年ぶりとなる「同一年度牡牝最優秀2歳馬輩出種牡馬」となった。

 

3歳(2010年)

阪神ジュベナイルフィリーズではなかなかゲートに入らず、ゲートの中にいる他の馬を待たせてしまっていたため、国枝が自ら願い出て最初にゲートに誘導されたが、相変わらずゲート入りには時間を要した。

良いスタートではなかったものの、追い上げて好位に位置したが、途中で前に馬を置いて息を入れることができずにかかってしまった。

残り200メートルで先頭となったが、終始アパパネの背後をつけていた9番人気のショウリュウムーンに外からかわされ、4分の3馬身遅れた2着。蛯名は「悲観する内容じゃない」と振り返っている。

ライターの軍土門隼夫は、良馬場以外のチューリップ賞は1996 - 97年、2001年、2003年とそれまでに4回あり、それらすべてで1番人気の支持を集めた馬が敗退していることから、アパパネの2着を「正しい敗戦」と指摘していた。

 

チューリップ賞の後、栗東トレーニングセンターに居残り、4月11日の桜花賞(GⅠ)に参戦。2.3倍の1番人気に推された。続く5.1倍の2番人気にはクイーンカップ(GⅢ)を制したアプリコットフィズ、9.9倍の3番人気にはフラワーカップ(GⅢ)を制したオウケンサクラが続いた。

チューリップ賞と同じく最初にゲートに誘導されたが、同様に時間を要した。

スタートからオウケンサクラが逃げて、アパパネは先行。

当日の阪神競馬場は、先行馬がそのまま勝利するレースが多く、後方からの差し切りが決まりにくいという馬場の傾向があった。加えて、出走するメンバーには特徴的な逃げ馬が存在せず、スローペースと目されていた。

このことから蛯名は意識的に4、5番手に位置。途中で折り合いを欠いた場面もあったが、蛯名は抑え込むことに成功した。

逃げるオウケンサクラを目標に、4番手で最終コーナーを回り直線では外に持ち出して追い上げを開始。粘るオウケンサクラを差し切り、半馬身差をつけて先頭で入線した。

走破タイム1分33秒3は、2005年のラインクラフトが記録した桜花賞レコードを0秒2更新するレコードタイムでの勝利。

蛯名は桜花賞を初めて制し、国枝はクラシック初勝利。美浦所属の騎手による勝利は、1985年のエルプスに騎乗した木藤隆行以来25年ぶり。

また福島競馬場デビューの馬による勝利は、1974年のタカエノカオリ以来36年振りであった。

 

桜花賞後に、美浦トレーニングセンターに戻って調整され、5月23日の優駿牝馬(オークス)(GⅠ)に参戦した。3.8倍の1番人気に推され、続く2番人気にはチューリップ賞で敗れたショウリュウムーン、3番人気には桜花賞2着のオウケンサクラであった。

降雨により馬場が悪化して敗れたチューリップ賞に次ぐ稍重となり、1600メートルでかかってしまうアパパネは、2400メートルの距離に果たして対応できるのかという心配も指摘されていた。加えて、外枠の8枠17番の発走であった。

しかし、桜花賞以来1か月半の間にアパパネの身体は前後に伸び、長距離をこなす余地のある体形に変化していたという。

 

ニーマルオトメが逃げてアグネスワルツがそれに続く中、アパパネは9番手の中団に位置。最終コーナーでは大外に持ち出し、アグネスワルツが先に抜け出していた。

アパパネの内側にはサンテミリオンがおり、2頭並んでアグネスワルツを目がけて追い上げを開始。

2頭は残り200メートルでアグネスワルツをかわして、2頭だけの争いとなった。

まず、アパパネがリードを作ったが、サンテミリオンが盛り返して、再び並んだところで決勝戦を通過した。

 

2頭の争いは写真判定となり、直ちに着順が確定していなかったが、蛯名は敗れたと思い、サンテミリオン騎乗の横山典弘に「おめでとう」と声をかけていた。

脱鞍所では蛯名が2着馬用の場所へ入ろうとしていたが、勝利を信じた厩舎スタッフにより1着馬用の場所に誘導された。

12分かかって判定は同着、JRA-GⅠでは初めてとなる1着同着、デッドヒートが成立した。

横山と蛯名は、1992年の帝王賞でも横山のナリタハヤブサと、蛯名のラシアンゴールドで1着同着を経験しており、それ以来のデッドヒート。

優勝賞金は、1着と2着の賞金を併せて半分に分けた6800万円であった。直後に行われた表彰式では、優勝馬服、優勝レイが一つしか用意されていないために、別々に実施された。

 

アパパネは、前年のブエナビスタに続き2年連続で牝馬二冠を達成。金子は、キングカメハメハ(東京優駿)、ディープインパクト(皐月賞、菊花賞)、アパパネ(桜花賞、優駿牝馬)の3頭で日本のクラシック競走全制覇を果たした。

美浦トレーニングセンター所属の関東馬の勝利は2002年のスマイルトゥモロー以来、また関東馬の牝馬二冠は1986年のメジロラモーヌ以来であった。

 

レース後は放牧に出ず、美浦トレーニングセンターに残った。2010年の記録的な夏の暑さに対し、まだ気温の上がらない午前5時に坂路で調整された。

8月から本格的に調教が始まり、9月9日に栗東トレーニングセンターに移動。

9月19日のローズステークス(GⅡ)で始動。食欲旺盛、度重なる調教でも馬体重は絞れず、優駿牝馬からプラス24キログラム。

調子が戻らず、出走にあたって国枝は「負けを覚悟」するほどの状態だったが、2.1倍の1番人気に支持された。

スタートから先行し馬群の中に位置したが、途中で折り合いを欠いた。直線では一時先頭となったが、後方を離すには至らず馬群の間からアニメイトバイオにかわされ、先頭のアニメイトバイオから1馬身以上後れを取る4着に敗れた。

 

それから、そのまま栗東トレーニングセンターに留まり、10月17日の秋華賞(GⅠ)に参戦。

体重は前走から4キログラム減り、馬体も引き締まった。蛯名はレース前、アパパネ1頭が優れているとして「普通に走れば勝てる」と分析していた。

2.3倍の1番人気に推され、対する2番人気にはクイーンステークス勝利から参戦のアプリコットフィズが7.1倍。優駿牝馬で同着のサンテミリオンが7.9倍の3番人気に支持された。

ゲートに入るのに苦労したものの、良いスタート。すぐに、中団の後方まで位置を下げた。

アグネスワルツが逃げる中、第3コーナー付近で進路を外に求めて追い上げ、残り200メートルで先頭となり、内から伸びたアニメイトバイオを4分の3馬身退けて先頭で入線。GI4勝目を挙げた。

1986年のメジロラモーヌ、2003年のスティルインラブに次いで史上3頭目となる牝馬三冠を達成した。

 

続く出走した11月14日のエリザベス女王杯(GⅠ)では、史上最速となる3歳11月でのGⅠ5勝目と牝馬初となる年間GⅠ4勝をかけて出走し、2.7倍の1番人気に推された。

イギリス及びアイルランドのオークス優勝馬スノーフェアリーにつけられた6番手に位置し、最終コーナーでは直線に外に持ち出して追い上げたが、スノーフェアリーに5馬身以上離された3着。蛯名は、敗因を精神面に求めている。

 

JRA賞では、285票中284票(残る1票はスノーフェアリーへの投票だった)を集めてJRA賞最優秀3歳牝馬を受賞。

年度代表馬選考ではブエナビスタが211票を集めて受賞する中、アパパネには2位となる41票が投じられた。JPNサラブレッドランキングでは「112」が与えられ、日本調教馬の牝馬では首位であった(世界首位は「120」のスノーフェアリー)。

 

4歳 - 5歳(2011 - 12年)

中山記念(GⅡ)で始動する予定だったが、熱発のため回避。代わりに出走したマイラーズカップ(GⅡ)では4着。

 

続いて、5月15日のヴィクトリアマイル(GⅠ)に出走した。

1年先輩の牝馬二冠馬ブエナビスタが1.5倍の1番人気に推され、それに次ぐ4.1倍の2番人気となった。ブエナビスタアパパネの馬連には32.77パーセントの支持率となった。

オウケンサクラが大逃げを打つ中、ブエナビスタよりも前につけて直線で大外から追い上げた。

内で先行から抜け出していたレディアルバローザを残り50メートルでかわして、迫るブエナビスタをクビ差だけ振り切って先頭で入線。

GⅠ5勝目、牝馬三冠を達成した馬でその後勝利を挙げたのは史上初めてであった。また、走破タイム1分31秒9は、レースレコードを更新している。

 

その後、安田記念は6着となり初めて着外。府中牝馬ステークス(GⅡ)では14着。エリザベス女王杯では再びスノーフェアリー敗れて3着となった。

その後は香港へ遠征し、12月の香港マイル(GⅠ)に出走したが13着となった。

 

5歳となった2012年も現役を続行。

蛯名の落馬負傷により岩田康誠に乗り替わった阪神牝馬ステークス(GⅡ)や、連覇が期待され1番人気に推されたヴィクトリアマイル、安田記念に出走したもののいずれも勝利することができなかった。

夏は、北海道苫小牧市のノーザンファーム空港牧場に放牧。

秋はエリザベス女王杯を目標とし、前哨戦から向かうことが決まっていたが、9月13日に右前浅屈腱炎の発症が判明。復帰を断念して引退し、9月15日付でJRAの競走馬登録を抹消した。

 

引退後

北海道勇払郡安平町のノーザンファームで繁殖牝馬となった。

初年度からディープインパクトが交配され、2014年2月28日に初仔となる牡馬(後のモクレレ)が誕生した。

GⅠ7勝の三冠馬ディープインパクトとGⅠ5勝の牝馬三冠馬アパパネの配合にメディアは「12冠ベビー」とはやし立てた。

その後、2019年までディープインパクトと交配を続け、12冠ベビー4頭を生産。最後の12冠ベビーとなったアカイトリノムスメは、2021年のクイーンカップ(GⅢ)にて重賞勝利、秋華賞(GI)にてGI勝利を果たし、母娘秋華賞制覇を果たした。

 

その他の12冠ベビーもおしなべて勝利を挙げており、中でも2番仔のジナンボーは新潟記念(GⅢ)2着2回、3番仔のラインベックは中京2歳ステークス(OP)を勝利している。

 

2020年からは、ディープインパクトの全兄で同じく金子が所有したブラックタイドが配合されている。

 

血統関係

ソルティビッド(Salty Bid 牝 2000 父:ソルトレイク(Salt Lake))

アパパネ(牝 2007 父:キングカメハメハ)

 └アカイトリノムスメ(牝 2018 父:ディープインパクト)