海音寺ジョー/しぶといやつ のバックアップの現在との差分(No.2)
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机に伏せられた五束のコピー原稿を、十名の編集がガササッと表に向ける。
向ける前から、裏写りする程にどす黒い原稿があった。誰もが気を留めずにはおれなかった。
繊細な筆致。現代社会にフィットした言葉選び。起伏に富む展開。全員が十六歳の才媛の作品を入選に、と態度を決めたが、どうにも、真逆の禍禍しさに凝り固まった、例の真っ黒い画稿、八十九歳の男の初投稿作品に言及せざるを得なかった。
「この作品、竹ペンか何かで点描で描かれてますよね」
隣席の新卒の編集が、眼鏡をかけ直し顔を近づける。
「うお、本当だ。枠線や吹き出しも点描だ」
「定規も使ってませんね。一枚一枚から焦げ臭いほどの、怨念が漂ってくるようだわ」
誰もが一位に推す作品そっちのけで、八十九歳の画稿、タイトル『横死』に各々が持つ漫画観をぶつけた。結果、八十九歳のぴょん太氏には特別枠で、臨時の賞を与えることに全会一致で決まり、結果通知が送られた。住所が東京郊外の墓地になってたことに、連絡役は一抹の不安を覚えた。
が、当のぴょん太氏は霊園管理事務所で朗報を受け取り、呵呵大笑して線香で次作に取り掛かった。
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初出/概要
超短篇・500文字の心臓 / 第172回競作「しぶといやつ」 / 参加作
執筆年
2019年?
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