海音寺ジョー/夢の樹 のバックアップ(No.1)


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 石段を、黒い牛と登っている。牛は人の顔をしている。足元は暗かったが月の光があった。

 牛がボソボソと何かをつぶやいた。表情は見えない。

 赤赤と月、のように聞こえた。

「もう一回、繰り返して」と牛に言う。

 ああ、あかあかあか、と、やはり聞こえる。意味は分からない。月に雲が被り、もう視界は闇で覆われた。ひた、ひた、と俺の足音と、牛の足音だけがそこにあった。

 牛はただ息をしていたのだったか。人面であるからといって俺たちのようにことばを話すとは、ただの早合点であり何にでも意味を見つけたがる業を恥じた。根毛が地の水を吸い上げるように、早く上に俺と牛を着かせたいと上暈の俺が焦る。

 

 目を覚ましてから明恵は記録をせねば、と矢立を取ったがどんな夢だったのか思い出せなかった。

ジャンル Edit

時代物色彩オノマトペ

カテゴリ Edit

超短編/ヤ行

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