海音寺ジョー/夢の樹
Last-modified: Wed, 24 Jun 2020 23:49:00 JST (1011d)
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石段を、黒い牛と登っている。牛は人の顔をしている。足元は暗かったが月の光があった。
牛がボソボソと何かをつぶやいた。表情は見えない。
赤赤と月、のように聞こえた。
「もう一回、繰り返して」と牛に言う。
ああ、あかあかあか、と、やはり聞こえる。意味は分からない。月に雲が被り、もう視界は闇で覆われた。ひた、ひた、と俺の足音と、牛の足音だけがそこにあった。
牛はただ息をしていたのだったか。人面であるからといって俺たちのようにことばを話すとは、ただの早合点であり何にでも意味を見つけたがる業を恥じた。根毛が地の水を吸い上げるように、早く上に俺と牛を着かせたいと上暈の俺が焦る。
目を覚ましてから明恵は記録をせねば、と矢立を取ったがどんな夢だったのか思い出せなかった。
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