よもぎ/湖畔の漂着物

Last-modified: Sun, 06 Jun 2021 23:26:41 JST (143d)
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 この川を下れば、きっと湖に辿りつく。俺はそう信じて舟を漕ぎ続けていた。だが川幅は日ごとに狭まり、草木もまばらになっていく。岩と砂の荒野はもはや砂漠というに相応しい。

 とうとう船底が砂を噛んだ。あきらめるものか。

 川に沿って歩いた。無情の砂が水を飲み干す。

 川は消え失せた。

 間違っていたのか。荒涼たる砂漠に陽が落ちる。落胆を抱え寝袋に入った。

 テントの外がぼんやりと明るい。月が昇ったらしい。出てみると、照らされた青い砂漠が見えた。あれは?

 遠く波打つ地上の満月。

 水!水だ!

 水鏡に映る月に向かって駆け出す。湧きだす水は滔々と広がる。辿りついた時には、湖と呼んでいい大きさになっていた。

 俺は正しかった。涙が頬を伝う。夢見た湖。

 美しい波間に浮かぶ光。

 光?

 それは、屋台に掲げられたランプ。

 色とりどりの果物。

 山と積まれたパン。

 絹を纏った踊り子。

 ラクダの隊商。

 水面に浮かび上がる古の人々の営み。岸へ流れつくと、一瞬で蘇るにぎやかなオアシス。湖畔はバザールの喧噪で溢れ返っていた。俺は雑踏にポツンと座り込んでいる。人々は陽気に語らい、食べ、歌い、そして疲れを癒す。

 西に傾き始める月。

 消えていく。ひとりふたり。ラクダ。バザール。そして湖。

 砂は静かに全てを包み込んだ。

 俺は大きく息をついて立ち上がった。夜明けの砂漠にはもう何もない。

ジャンル Edit

幻想?異国砂漠/沙漠/荒野??

カテゴリ Edit

超短編/カ行

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字の心臓 / 第134回競作「湖畔の漂着物」 / 参加作

執筆年 Edit

2014年?

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