よもぎ/ローズティー

Last-modified: Tue, 28 Jul 2020 23:36:30 JST (454d)
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 (おかえりなさい)出張から戻った私を迎えた妻の口からピンクの薔薇がこぼれ落ちた。旅行かばんを受け取りながら妻が訊ねる。(お風呂にする?お食事?)黄色とオレンジの花びらが廊下を舞う。とりあえず私は頭を冷やす。動揺を押さえるようにシャワーを浴びる。いつもと同じ妻の笑顔。しかしあの薔薇は何だ?

 キッチンへ戻る。食事の準備ができている。テーブルを挟んで冷えたビールで乾杯。妻が(あぁ)と深く息を吐く。その途端、深紅の薔薇がぼとり。私は恐る恐るそれを摘まみ上げる。(何?)妻が怪訝な顔をする。見えていないのか?いや、なんでもないよ、この肉ジャガ美味しいね。妻が話をするたびに薔薇がテーブルに広がる。空白の時間を埋めるように無言の時間を恐れるようにたわいのない話をしつづける妻。彼女の口から吐き出される彼女には見えない花。見慣れた食卓を薔薇の花が埋め尽くしていく。あり得ない情景。だがいつか見たような奇妙な予感。いつものように妻が紅茶をいれる。

 リビングで二人、並んでテレビを見ていた。妻が握りしめたカップに白い塊が落ちる。瞳から白い薔薇を流しながら「ごめんなさい」とつぶやく見知らぬ女がそこにいた。

ジャンル Edit

怪談ご飯お酒?色彩?彼女わたし

カテゴリ Edit

超短編/ラ行

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字の心臓 / 第8回自由題 参加作

執筆年 Edit

2003年?

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