まつじ/鸛
Last-modified: Thu, 11 Mar 2021 23:28:06 JST (935d)
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コウノトリが運んできたのは、赤ん坊ではなく小さな物語。
長いこと子どもを待っていた村人達は腹を立て、村はずれに鎖で彼を繋ぐ。
「退屈だ」と石を投げつけられる度にコウノトリは短い物語を聞かせ、ある夜、催促もしないうちから大岩を背にして静かに語りはじめる。それは、物語とは言えなかったかも知れない。
「ある日ある村の女という女の腹が大きく膨らみました。」光のない、コウノトリの眼。「村の男どもは恐れるばかりで何もできず、」ゆっくりと動く嘴。「女の腹は一晩のうちに大きくなり、」ざざ、と森から風が吹きコウノトリの物語を運んだ。
「裂けた下腹からごとりごとりとそれぞれ四十の子どもを産み落とすと、傍でおののく男たちを絞め殺し自らも息絶えました。」風は村に届き、物語は続く。
「辛うじて生き残ったたった一人の男は」
赤ん坊の山の上で泣き叫ぶ男が一人。いくつもの赤ん坊を殴りながら遂には転がり落ちて息絶えた。「やがて狂い死に、」
下弦の月。
「残された血にまみれた赤ん坊の山のてっぺんで、そのうちのひとつが産声をあげる。」
暗く淀んだコウノトリの眼。
「村は待望の赤ん坊を得たのです。」
いつ鎖を外したのかコウノトリが静かに飛び去った夜明けに、子ども達の泣き声が聞こえる。
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