暗い海の中を、群れが矢のように過ぎて行く。
海草と岩の間を避けることなく進む。
その端に触れた岩が砕け、身を潜めていた小魚たちが散り散りになって逃げる。
危険を察知した一頭のシャチが合図を送り、身をひるがえし彼らが避けたすぐ後を突き抜けた幾つもの影は彼方の海へ消え、遠くで低く鯨の鳴く声がする。
群れを阻むものは無かった。
頭上をクラゲが漂う。
海にそびえる山脈を越える。
動きの鈍い巨大な船の側面を貫く。一瞬船内に取り残された数匹も、流れ込んでくる水を得て、前方に開けられた穴から群れを追う。船が沈みだす頃にはもう姿は見えない。
それから暫くは何もない。
何もない。
何もない。
群れが加速する。
反対側の海から別の群れがあらわれたと思う間もなく互いの群れは衝突し通り過ぎ、旋回すると再びぶつかり、その身を削る。次の旋回で、彼らの一部が海中に届いた陽射しを浴びてきらめく。衝突と旋回を繰り返し硬い体を傷付ける。傷口がまた光を弾いた。
やがて群れのどちらかが去り、残った群れから一匹が元の形をなくして海面に近づくと削られた体をひときわ輝かせ力尽きる。
沈んでいく体を見届けることなく群れは暗い海の向こうへ消えて行く。