穏やかではある。
風が吹けば笑う。雲が流れても笑う。予鈴が鳴れば笑う。「起立」で笑うのに「礼」では笑わなくて、「着席」では笑う。先生に叱られることもある。当人に悪意がなくとも、快くは思われない。とても穏やかなのに。
楠久くんは、得体が知れない。同級生たちは、渾名をつける。今日は「起立」で笑わなかった。けれど廊下で笑ってた。畏れていながら、陰で笑う。
彼らの理由は、楠久くんに分からない。人身事故と聞けば悲しい。止まった電車のなかにいて、彼らは笑っているけれど。
穏やかではある。
穏やかではある。
救急車のサイレンが鳴る。
「クスクスが出たらしいわよ」と、誰かの母たちが囁いている。
彼らがまたちいさな声を立て笑う。
それは物騒だ、と楠久くんは思った。