「そういう事情があってね」
カクカクシカジカの末尾に溜め息を添え麗しの彼にそんな説明をされたらその体に触れたくっても触れちゃあダメってことになってしまうから、わたしにとってそんな仕打ち正味なところ苦行に近い。
さわりたいさわりたい。
さわりたいけれど、たとえばこの親指と人指し指の腹でその左耳を撫でようものなら、いかにもカタブツな彼のアイデンティティは崩壊しその体はもはや彼ではなくなってしまうんかもしれないんだって云う。
うーん、それはそれで、きもちいい、気配。要は自信がないってことかしら。
彼の云うことはいつだって、わたしにはさっぱり分からない。それでも惹かれる摩訶不思議。きれいは汚い、みたいなミステリアス。ものの喩えじゃなく、本当に彼は人ではないのかも。触れたら、ひんやりと優しくて、それだけじゃない何かがあるんだろう。
だから触れたいけど、まだ触れず、想像するだけでいる。