夜のこの辺は存外暗い。遠くで、テニスをする人たちのために、野音のステージを照らすために、それぞれライトが焚かれるのだけど、この辺まで離れると松本楼からの漏れ灯ぐらいしか照明が無い。東京どころか、丸の内なのに田舎みたいな暗さ。
だからちょっと安心して、愛犬と散歩する。暗い夜の公園なのに無闇な不安に襲われないのは、環境省に残業しているライトが点いていて、テニスコートで歓声が上がり、野音に歌声が響くから。
今、野音から聴こえるのとは全然違う曲だけど、あの時はまだ子どもだったけれど、野音の外で漏れ聴いた「ラスト・チャンス」を思い出す。気分が上がる。歩く速度がすこし上がり、犬も心なしか弾むように歩く。
気まぐれな恋は遠くて久しいけれど、同じ空間で夢のような時間を過ごしている若人がいると考えたら、楽しくて仕方ない。老人の楽しみ。
どんととらすとおーばーさーてぃーと叫んでいた若人も等しく歳を取り、今じゃ、ロックなんか老人しか聴かないと言われて久しい。でも、還暦を超えて飛び跳ねる老人なんて、もちろん人類史上初の快挙なんだから、褒められこそすれ、貶される筋合いはない。
「中途半端は辛いものだよ」
声に出す。
なんだか楽しくて仕方がない。