胡乱舎猫支店/群雲 のバックアップ(No.1)
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森を抜けて急に開けた風景の先には海が横たわっていた。
この先は大丈夫そうなので翻訳機をオンにした。未舗装路のノイズは最悪だ。
「あれだ」指し示された先にいる集団が「猟師」だと説明された。
水平線に沿う煙った紫からグラデーションで濃厚な赤へと変わる空に幾人かが拡声器の様なものを向けている。
「あの音砲で狩る。奴らにこの譜を当てるんだ。いい感じだろう?」体を揺すりながらガイドは言った。猟師達も同じリズムをとっている。楽しそうで残念だけど聴こえない。彼等とは可聴域が違うのだ。
「あそこだ」見上げると示された辺りの空が幾度も刷いている様に白く変わっていく。濃さが厚み持った処から小さな塊が次々に生まれて暫く漂い、重さなど無さそうにふわふわと落ちて来る。この空の色に負けない程強い白が無数に降って来る。見つめているとその中を登って行く錯覚が起こった。
何故ここに、どうして一緒にあなたが居ないのかが本当に不思議だった。
これはあの絵、雲だけが不透明水彩で描かれたあなたの大好きな絵、そのままの光景なのに…。
「持ってけ」気がつくと地上では回収が始まっていた。声の主はくったりした「獲物」を差し出して少し笑った。
全て落ち切る前に一枚だけでも撮ろうと構えたフレームの両隅に月が2つ共入り込んだ。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第138回競作「群雲」 / 参加作
執筆年 
2015年?