胡乱舎猫支店/夢の樹
Last-modified: Wed, 24 Jun 2020 23:37:10 JST (1184d)
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「あれってどうしてそう言うんだっけ?」
「何が?」
パパは応えるけど眼を合わせない。いつものことだ。
「前に教えてくれたよ?」
「…それママじゃないかな?」
ママはいない。ずっと前から。でもこれは言っちゃいけないことなんだ。
「明日先生に訊いてみる。」
「それがいい。」
「少し長くなるから放課後、カウンセリングルームで説明します。21で。」
真っ直ぐに眼を見て先生は言った。マニュアル通りだ。
西廊下の端にC21はある。行ってみると他にもいた。
「処置は完了ゥでェス。」
執行者の奇妙な抑揚にはもう慣れた。
「お疲れ様でした。」
「今回はク戦しマしタ。」
「大変でしたね。」
「仕事でェスかラ。」
「その…2度目だからでしょうか?」
「はイ、そレにアの生徒は母ァ親が。」
「3度でしたね。」
「えエ、だかラ次ィはもウ…。」
「そうならない様に努力します。」
「たァい変ですネ。」
「仕事ですから。」
執行者が去った後、ブラインドを開けた。窓の外は赤灰色の空が低く続く下に枯れ果てた大地が横たわっている…筈だ。なのにあってはならない色、青々した葉を豪華に纏った巨木が優雅に梢を揺らしている。
あの樹が視えてはいけない…いや、視える事が知られては…。
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この話が含まれたまとめ 
選評/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第150回競作「夢の樹」/ 参加作
執筆年 
2016年?
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