胡乱舎猫支店/やわらかな鉱物
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妻を埋めるのは気が進まなかったが本人が望むのだから仕方がない。
買ったばかりの家の庭をひたすら掘る。
「ごめんね〜。私モゲラならよかったのに。」
「…それモグラだから。」
「そうそれ!」
”結晶化”が始まったと彼女から手引書(翻訳済)とキカイ(該当単語無)を渡されたのは一週間前。真っ先に近所への根回しは済ませた。
丁度いいサイズになったことをキカイが告げると妻は穴に横たわった。そっと土をかける。
「もっとケーキおいしくやっちゃって!」
「は?…何?…もしかして景気良く?」
「そうそれそれ!」
「…えっ…とその、こういうのってお義母さんとか君の家族は来ないの?」
「え?どうして?何しに来るの?こんな一年もかかる辺境に。」
(辺境なのは君の星の方だろう?)
顔の部分だけ残した辺りで中断して暫く話をした。
久しぶりのまとまった会話なのに段々途切れがちになってやがて彼女は黙り込む。
完全に埋める様にキカイが告げたのでその前に頬に触れた。
柔らかい、とても。何となく輪郭が硝子質になった様なのは気のせいか…。
これから暫くはキカイと一緒に暮らすことになる。
「明日は筋肉痛かな?」彼女達が戻る迄の同居人(?)にそう言ってみた。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第132回競作「やわらかな鉱物」 / 参加作
執筆年 
2014年?