海音寺ジョー/虹のまち拾遺
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虹のまちと呼ばれていた地下道。天井の梁に七色の衣装が凝らしてあって、なんばウォークに改名する時には町衆は不満轟々、反対したものだ。
当時俺は相々橋筋の居酒屋でバイトしてて堺筋線日本橋駅から虹のまちを通り行き来していた。
午前零時を回ると、口裂け女が出るという噂があった。誰も信じなかったが、俺は怖がりだったので夜勤明けの未明に通る際、女の影が追ってこないかと恐れたものだった。
居酒屋の老マスターは千日デパート火災の話をよくしてくれた。プランタンなんばの前、そこは千日前デパートが建ってて、俺が生まれた年に大きな火事があって人が沢山死んだんだという。
「今でも成仏できん霊が留まってるんや」
周りの客も同意しプランタンが建ってからも忌まわしい話が絶えん、あそこはまだ鎮まってないんやろな、と口々に自分達が聞いた話を披露し始めて、俺は街の歴史を皿洗いをしながら聞いていた。
虹のまちと隣するビルの真下に噴水広場があった。俺は尿意を催し、そこの便所に夜勤帰りに立ち寄ろうとした。
急に足が重くなって、体が動かなくなった。あたりには誰もいない。噴水は止まってて、静寂に汗が出てきた。地下の通りは何か別の通り道と交錯しているのやと、酔客の一人が呟いていたのを思い出した。
その時、虹のまちの歌がスピーカーから流れてきた。急に我に返った。始発までは時間があるのに、それは試験的に流したのかもしれない。体は元通り動くようになり俺は小便をすませ、いつものように日本橋駅から大学近くの下宿に帰ったのだった。
あれからだいぶたつ。プランタンもカメラ屋に入れ替わった。色々なことは記憶から遠ざかっていく。しかし、あの時の金縛りはまだ鮮明に覚えている。
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2016年?