海音寺ジョー/一夜の宿
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ロサンゼルスの、リトルトーキョーにある安宿に泊まる。メキシコに行くには、アメリカまで飛行機を使い、長距離バスでティファナから国境越えるのが一番安い。日系人が経営してる、キッチンが共同スペースになってるこの安宿は日本人旅行者の溜まり場のようになってた。
卒業旅行の大学生や、日本から脱出した長逗留の人などがリビングのテーブルを囲んで、自分達の持ってる旅先の情報を交換しあってる。
ぼくも会社を辞め、あてもない旅をしたくて紛れ込んだくちだが、誰も蔑視したり見下したりもせず仲良く受け入れてくれ、日本を出たときの罪悪感が消し飛んだかのような安堵を覚えた。それでも、外国語に堪能でもないのに放浪なんて、という不安は残る。
裏口を出ると黒人の爺さんと鉢合った。ニカっと笑いかけられ反射的に笑顔を返す。
「クオー?」と話しかけられてどぎまぎする。一体なんて言ったんだろう?爺さんは何度か同じように話しかけて来て、それは「COLD?」だと5回目ぐらいでわかった。「おい、若いの、寒いな」と言われたのだ。イエス、コールド!とぼくは大きな声で答えた。爺さんは満足そうにまた笑って、タバコを吸いはじめた。
明日は朝いちばんで、バスの切符を買いに行こう。
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この話が含まれたまとめ 
選評/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第146回競作「一夜の宿」 / 参加作
執筆年 
2016年?
その他 
日刊デジタルクリエイターズ エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[27]歯医者のはなし 一夜の宿
/海音寺ジョー