海音寺ジョー/たぶん好印象
読む 
オーギュストロダンに会う—
そのために高村は米国で知り合った荻原と一緒に留学中の英国から渡仏、パリ郊外のムードンの自宅まで訪ねて行った。
玄関を開け、出迎えてくれたのはロダン夫人だった。
「せっかく来てくれて悪いのですが‥今主人は留守にしてますの。いったんアトリエにこもったら何日も帰らない性分ですので少し遠いですが、そちらへ行って御覧なさい」
と言ってくれた。
だが高村は、あいにく汽車の時刻が迫っておりますので、と夫人の申し出を辞退した。それは日本人特有の遠慮深さからではなく気怖じしたのだった。
「それは残念でしたね。最近主人は年のせいか、ひどく気難しい所があるのよ。でも貴方の様な目をした人なら、きっと喜んで会ってくれるわ。またいらっしゃいな」
夫人と別れてから、荻原はまだ汽車には余裕があるじゃないか、と高村に毒づいた。
「荻原、僕はロダン先生の自宅を見ることが出来た!それで充分だ」
「君には貪婪さが足りない、ロダンは日本の美術学校にいた頃から、俺同様ずっと憧れの頂点だったんじゃなかったのか」
荻原守衛はすでにロダンと面識があり師事していた。新しい芸術が駘蕩するパリで、奔流するモダニズムを全身に浴び高村光太郎もまた、変わろうとしていた。
1907年。光太郎25歳の晩秋の日の事だった。
ジャンル 
カテゴリ 
この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第86回競作「たぶん好感触」 / 参加作
執筆年 
2009年?