よもぎ/死ではなかった
Last-modified: Mon, 21 Dec 2020 23:32:51 JST (1517d)
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「ねえ、バァバ」と子ウサギは尋ねた。
「死んだらどうなるの」
「さあねぇ。バァバも死んだことがないからねぇ」
「でも、ジィジは死んじゃったんでしょ?」
「ああ、そうだね。うん。じゃジィジの話をしてあげよう」
ジィジは、いつでも耳をピンと立てた元気なウサギだったよ。でもやっぱり命の水が尽きる時が来たんだね。あの朝、バァバが起きたときにはもうすっかり冷たくなってた。お弔いの晩バァバは一人でジィジのそばに座っていてね。ついウトウトしちまったのかな。気がつくと死んだはずのジィジが、起き上がってニコニコしてるじゃないか。びっくりしたさあ。「ばあさん、見てておくれ」ジィジはそう言うとみるみる光りだしてね。白いまあるい玉になった。毛の一本一本がふわぁとふくらんで、タンポポの綿毛みたいにひとつ、ふたつ、と飛んでいくのさ。そのひとつひとつに豆粒みたいな小さなジィジがぶら下がっていてね。「じゃあ行ってくるよ」って、あっちこっちへ飛んでいっちまった。え。ジィジはどこへ行ったのかって?さあねぇ。でも最後にひとつ残った小さなジィジは、バァバの手のひらに降りてきてねぇ。すうっと染み込んでいったんだ。そうしたらなんだか、あったかぁくなったんだ。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第94回競作「死ではなかった」 / 参加作
執筆年 
2010年?
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