よもぎ/嘘泥棒
Last-modified: Wed, 13 Jan 2021 23:10:43 JST (1335d)
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公園のベンチに真っ赤な携帯電話がぽつり。忘れ物かと手に取ると着信音。慌てて出てみると女の子の声。
「おじさん、そのケータイでとってみて」
そしてプツリと通話は切れた。とる?撮る?私は携帯をフォト機能にしてかざしてみた。私の前を夫婦らしい二人が横切った。
「でな、今度の土日は泊まりで接待ゴルフなんだ。すまんな」
カシャ。携帯がひとりでにシャッターを切った。すると
「でな、今度の土日は部下のミユキと一泊旅行だ。うひひ」
男はそう言い換えていた。女はみるみる声を荒げ二人はケンカになってしまった。なんだ?これは?私は公園の人々に携帯を向けた。若いカップルは
「遅れてごめん。渋滞に巻き込まれて」
カシャ。
「あーあ。約束なんてすっかり忘れてたし」
人待ち顔だった女性は男をひっぱたいた。立ち話の主婦は
「可燃ゴミの日に袋に入れてテレビを捨てた人がいるのよ」
「困った人がいるわね」
カシャ。
「自分が捨てたなんて言えないわ」
二人の主婦は顔をひきつらせた。なんだ?この携帯は?
帰宅し、妻や娘にも真っ赤な携帯を向けようとして・・・やめた。怖い。そのとたん着信音。
「なんだ、もうおしまい?じゃバイバイ」
そう言うと、真っ赤な携帯電話はドロンと消えた。
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初出/概要
超短篇・500文字の心臓 / 第96回競作「嘘泥棒」 / 参加作
執筆年
2010年?
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