まつじ/P

Last-modified: Tue, 11 Apr 2023 23:29:59 JST (378d)

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 見たことのない文字であつたが子葉に似て可愛らしく思えたので育てることにした。いつか背が伸び葉が太りめきめきと生長していくだろう。指で撫でる赤ん坊の手指の爪ほど小さき彼が体積を増し容姿を変えやがて大きき樹の字となれば君がこんなに随分込み入つた体を持つようなことは当時想像の外であると揶揄(からか)つてやろう。月日の経つのの愉しみなことだ。むろんというか彼(か)の字は私において子葉に似た意味を付帯する。思い入れがあればこそ細事に見分けし書体によつて今度は感情を伴いその状態を診断する。否。いま彼を寂しく感じるのは他ならぬ。無意味のものが私を通し意味と情緒を帯びる不思議はともあれ愛憎に似ている。

 見たことのない文字で綴られた本であつたがその所々に彼が在るから筆者よりも私に寄りの書物となつてしまつた。人と人の擦れ違う訳である。

 赤ん坊の手指の爪ほど小さき彼の字たちが体積を増し容姿を変えやがて大きき樹が立ち並ぶ。頭をやわらかく撫でる。そうして、初め君を見たときは思いも及ばなかつたのだと揶揄う。

ジャンル Edit

文字??赤ちゃんわたし

カテゴリ Edit

超短編/その他

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第153回競作「P」 / 参加作

執筆年 Edit

2017年?

その他 Edit

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