まつじ/Jungle Jam
Last-modified: Tue, 24 Jan 2023 23:25:45 JST (315d)
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鈴が鳴る。
家の鍵を落としたらしい。
夜だというのに蝉が騒々しく、つい、生きているを主張しているよう感じるのは、私の身勝手というものだろう。なにしろ彼らは日中もうるさかったものだから。
鍵を拾い、熱帯夜に分け入る足取りで上る。水の中を進むのに似た苛立ちがある。坂の両脇に繁る木々から蝉の声が、不意に、まるで首を絞められた鳥の叫びで遮られた。
得体の知れない森に迷い込んだ錯覚に陥る。蝉と、不穏な鳥の鳴くごとに周りの樹木たちがその影を伸ばしもはや空を覆うようだ。月は、私の事を知らない顔でこちらを見下ろしている。やけに、見えない生き物たちの声で騒々しい。
鈴が鳴る。
家の鍵を落としたらしい。
明日も早いのだから、安らかに眠りたいのだが。
熱帯夜の坂を帰る。
蝉の鳴きやむ気配は無い。
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初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第141回競作「Jungle Jam」 / 参加作
執筆年 
2015年?
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