まつじ/金属バット32
Last-modified: Wed, 09 Dec 2020 22:44:09 JST (1019d)
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太陽が天頂からゆっくりと転げ落ちて夕暮れから夜に変わる黄昏の空を切り取るように町を走る電線の間を幾つかの黒い影が飛んでいる。
この町も随分変わった。
自分が子どもの頃はこれくらいの時間になっても友達と外を走り回っていたものだが、今では陽が傾く前に町中に警報が鳴り、それを聞いた子ども達は慌てて家へ帰る。それは、町の外れの小さな研究所で事故が起きた頃からだとも言われたが、結局は何も分からない。
カーテンの隙間から外を覗くと、巨大なダンゴムシが何本もある足を犇めかせながら歩いていた。
町は夜になると姿を変え、暮れ方になると現れる奇怪な動物や虫が、夜の町を支配する。
この間も、どこかの子どもがゴムネズミの集団に飛びかかられて死んだ。
窓の外、紫の空を割る電線の間を飛びまわる黒い影の一つが突然向きを変え、次の瞬間には目の前の窓を体ごと破り、ガラスの崩れる大きな音が響いた。
体を伏せた僕は、床の上で身を捩りキチキチキリキリと体を鳴らす奇怪な蝙蝠を見た。
5年前、弟を殺した。どこの莫迦が考えたのか、金属バット、とこの辺りでは呼ばれている。
僕は身を屈め、机の上の電気の首の部分に手をかけ思いきり叩きつけた。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第39回競作「金属バット」 / 参加作
執筆年 
2004年?
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