まつじ/這い回る蝶々
読む 
「あ。」
あざやかに滑空する鳥を見てつい声をあげてしまったのだけど、
「ハハーン、巧いもんだ」
思いがけず返事があってたまげた。
「でも私はチョウチョウのほうが」
あ、ワタクシ旅の者で某と申します。腹が減りました。
と、縁側に腰かけてずいぶんと図々しいが、ぼくなんかに話しかけるくらいだから、そんなもんかもしらん。
残り飯で作ったお茶漬けを啜りながらようやく、よく見るとあなた少し変わっておられる、と不思議でもなさそうに言う。
「あー、なんと言うか、説明は面倒なんですが」
へえ、と相槌。
「鳥人間、みたいな。いや、飛べないんですけど」
へーえ。はっは。おもろい。
何が。さっきの蝶云々のはなしに水を傾けると、
「あー、なんだかあの、ひらひら不安定な感じが、ああ、そんなものかもなあ、みたいな、だといいなあ、というようなところも」
椀に残った汁をずるずる飲み干し
「友人はあちこち飛び回りよるんですが、私はこれこのとおり、ひらひらというより、ふらふら」
はっは、と笑う。
ご馳走様を言って、足が悪いのかカクカクと妙な動きで立ち上がった彼は、はっはっは愉快愉快といろいろを笑い飛ばしカクカク去ってゆくので、ぼくもハッハッハ。いまでもたまにひとりで笑って気持ち悪がられる。
ジャンル 
カテゴリ 
この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
超短篇・500文字の心臓 / 第66回競作「這い回る蝶々」 / 参加作
執筆年 
2007年?