まつじ/結晶
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ウウムと心中唸り一編捻りだそうとしていた電車で、見知らぬ坊主と乗り合わせた。
念の為言うが、坊主とはいわゆるお坊さんの事であり、ガキ子供の類ではない。正真正銘と言いきるには些か自信がないが、坊さんみたいな風体のおっさんであることはほぼ間違いない。
それはともかく。
小太りで坊主頭の毛もまばらなその人はそれらしい黒い衣装で吊革に掴まり暑さからか、ひいふう息をつき汗を拭っては、ひいふうする。誰かが立つともちろんというべきか穏やかにしかし確実にその席を埋めた。
背後の椅子が空いたのによく周りを見ているな、と妙なところで感心させられる。
柔和そうな顔のつくりだが今は、ふうふう大変そうだ。
ものは試しに脳味噌のなかで坊さんに喋らせてみると、
私やあなた、全ての命が、まずは親の愛の結晶であると言えます。
などと言う。疑えば、
それでも私たちがここに在るのは誰かの愛情あればこその結果でしょう。
と答え、
例えば「坊主」は私の努力の結実ですが、それは完成でなく終わりでもありません。全ては積み重ねです。続けることです。
空想なので、少々脈絡がない。
結局、捻りでてこない一編。
そうしているうちに坊主は南浦和辺りで煙のように消えた。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
選評結果 正選2点・次点1点・逆選3点
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第106回競作「結晶」 / 逆選王作
執筆年 
2011年?