まつじ/ふたりぐらし

Last-modified: Thu, 26 Aug 2021 23:39:49 JST (970d)
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朝、目覚めた夫とふたりで朝食をとる。窓から入る陽の光がやさしかった。

 私は体が不自由で、代わりに毎朝キッチンに立つ夫の後ろ姿を見るのが好きだ。今朝は、トーストにプレーンオムレツとサラダ。

夫の作るオムレツは見事な黄色で、最高においしそうだったけれど、目の前にきれいに並んだ料理を見ても食欲がわかない。

 ごめんなさい今日食べる気がしないの。

 私はそれ言葉にすることも出来ないけど、夫は笑って許してくれる。だから私も笑顔だけは絶やさないでいる。

 どうして私の体はこんなになったのか考える。覚えていないし、だれに聞くこともできない。食器を洗う夫の背中を眺めていると、それでもいい、という気持ちになる。

 仕事に行く支度をすませた夫は、機嫌がいいのか、今日は大きなかばんを用意していた。

「たまには、一緒に行こうか。」

 こんなふうに夫はときどき私を仕事場まで連れていってくれる。

 夫はかばんをひらいて、テーブルの上の私の首を仕事の書類や筆記具の隣に置くと、そっと入り口を閉じた。

 頬に触れた夫の両手はやわらかくて、あたたかかった。

 私は暗い中で微笑んだまま、夫が顔をのぞかせてキスをしてくれるのを静かに待つ。

 しあわせだと思う。

ジャンル Edit

ホラー家族仕事わたし

カテゴリ Edit

超短編/ハ行

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / ホラー超短編 参加作

執筆年 Edit

2006年?

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