結局逢えなかった叔母の家の窓からは海が見渡せた。かつては珊瑚礁だったという遠浅の海は人魚の繁殖地として有名らしい。
「ここらの人魚の尾っぽはね、ちょっと変わってて、みんなバラバラで色とりどりなんだ。ほら、普通はそろってるよね?赤系とか青系とか、そんな感じにさ」
そう教えてくれた人と叔母の関係はわからなかったけれど、リビングの映像フレームが流していたのは2人で笑っているものばかりだった。
「また来て、是非」
別れ際にそう言って渡してくれたものは本当はあの人が持つべきなのではと思ったのは船が宇宙港を出た後だった。>スクリーンウィンドウにあの星の輪郭がいっぱいに映し出されて遠ざかって行く。
沖まで続く薄荷水の中を揺蕩う色達。波間から射し込む光が溶け出して行く……揺らぎが満ちて五感を侵食する……>深く……深く……。
そんな夢を見たのは睡眠槽の中が思いの外、心地よかったからかもしれない。
エンケラドスまでもう一眠りできそうだ。