「…えっと、どう…始める?」
「んー」
ハープが爪弾く、最初のひとしずく。
蕭々とハープシコードが降る。
シロフォンが参入、勢いを増す。
シンバルとタムタムが乱入。
「ちょっと、これじゃ嵐だよ」
「まあはじまりってこんなもん」
揺蕩う管弦楽器。
オーボエとトロンボーンの絡まりを合図にゆるやかな転調。
繰り返し、繰り返す。
「いいところまで行ったのに持ってかれるカンジ」
「湿原はうねるからね」
トライアングルがきらめく。
「あっ三日月湖」
ハーディングフェーレとヴァイオリンからヴィオラに主旋律が渡る。
「小屋がある、左っ側」
時折、吹き抜けるクラリネット。
「あれ、ビルかな?
まだ遠いけど」
指差す先はチェロが奏でる、高音域から艶やかに。
「結構大きな街だねぇ」
コントラバスが寄り添いさらに広がりを紡ぎ出す。
音符の陰影をまとうサクソフォンとのアダージュ。
夕刻の光の様に穏かに溶かしていく。
シルエットだけの鴎が飛び交う。