上石神井のラーメン店で働いている。
先月、所沢店から赴任してきたばかりだ。
中国人スタッフのフェイさんは、あんまり日本語が喋れない。
それでも外貨獲得のために昼はコンビニ、夜はこのラーメン屋で頑張っている娘さんだ。
今日も人手不足で忙しかった。
帰り際、事務所の机の前に飾ってるオランウータンの親子の写真絵葉書を、ふとフェイさんに見せてみた。
「これ、中国語ではなんていうんですか?」
「シンシン!」
「えっ?」
ぼくが戸惑っていると、フェイさんはメモ帳に素早く『星星』と書いた。
「シンシン?」
「そうデス。ターシンシンです」
フェイさんはそう言って、星星の手前に、大、と書いた。
大星星−−−−
「じゃね、サヨナラ、オチュカレサマ!」
と言って、フェイさんは帰ってった。
ずっと後から、夢枕獏の『闇狩り師』という小説のことを思い出して、「あっそうか、猩猩(ショウジョウ)か!猩猩を現代中国語では簡体字で星星、と書くんだ」と得心した。
あとで、電子辞書で調べたら、星星はゴリラのことだった。ただしオランウータンも星星と言うのだ。
中国では、大きいサルのことは、みんな星星というのだ。
ラーメン屋は、今日も忙しい。