大通りに溢れかえるクリスマスソングに辟易した僕は、入ったことのない裏通りを歩いていった。どこからかか漂う馥郁たる珈琲の香り。足を向けるとふいに小さなレンガづくりの喫茶店があった。ドアをあけるとカランとチャイムの音。
「いらっしゃいませ」
カウンター越しにふっくらとした笑顔で白いエプロンのおばあさんが声をかけてくれた。カウンターには客らしき年配の男性がひとり。豊かな白いひげが顔を隠している。
「おお、もうこんな時間だ。すっかり話し込んでしまった」
男性は珈琲を飲み干した。
「また来るよ」
と席を立ち、すれちがいざま僕に青い瞳でにっこりと笑って、ドアを開けて出ていった。
あれっ?今の人、たしかどこかで会ったような?有名人?
珈琲を注文し、僕はそのことをおばあさんに尋ねてみた。おばあさんは、いたずらっぽく笑い
「ええ、ええ、あなたもきっと以前あの人に会っているはずですよ。だって、あなたも子供だったんですもの。いつかどこかのクリスマスの夜。覚えがあるでしょう?」