「大丈夫よ」携帯電話の向こうで彼女が言う。
「海に落ちた空は浜辺に流れ着くものよ。そういうものなのよ」
なぜ君がそれを知っているのか知らないが、僕はひとまずホッとした
シロギス釣りの朝まずめ。思いきり投げた一振りが勢い余って夜明けの空へガチャン。僕の前で砕けた空がざらざらと海に降り注ぐ。やっぱり金剛石の重りなんて使うんじゃなかった。そして僕は無性に彼女の声が聞きたくなったというわけ。
やがて彼女の言うとおり、浜辺に空の破片が流れ着く。夜から朝へ霞むカシミアンブルー。今日を予感させるピンクやオレンジ。星が白く瞬くかけらもある。僕はそれを拾い集めた。すると薄明かりの向こうでやはり空の破片を拾っている人がいる。誰かと思ったら君だった。
「来ちゃった」君はてへっと笑って、夜明けの色に光る破片を僕に見せた。
僕らは拾い集めた夜明けを砂浜に並べていく。難しいジグソーパズルだけれど、君が僕のそばで笑っていてくれるのなら、このまま何ピースでも何ピースでも空の破片が流れ着けばいい。君の髪が香る。