ぼくのじいちゃんには秘密がある。ぼくとじいちゃんだけの秘密だ。
ぼくはじいちゃんと風呂に入る。じいちゃんは、ゆっくりと湯船に浸かると、あ~っ、と気持ちよさそうに声を出して目を細める。そして、じんわり身体が温まってくると(ここからが秘密だ)じいちゃんの耳たぶがぷくぅと膨らんでくる。お餅を焼いたときみたいにぷくぅと膨らんだ桃色の耳は、触らせてもらうとお餅よりも柔らかくて、ぷにぷにぷにぷに、ずっと触っていたくなる。ぼくが触っている間、じいちゃんはくすぐったそうに笑っている。
なんで耳たぶが膨らむのと訊いてみたけど、理由はじいちゃんにもわからないらしい。でも、じいちゃんの心が穏やかになる気持ちのいい場所では、
「膨らむんだよ」
と、教えてくれた。誰も気がつかないの?と訊くと、じいちゃんはアガリ性だから人前では落ち着かなくてなアッハッハと笑った。
「今はおまえと入る風呂が一番だ」
と、ゴツゴツした指でぼくのほっぺたをなでた。