その音を聞くと、こめかみに甘い痛みが走る。眉間にしわを寄せ目を細める。音が胸に肩に腕に足にからみつき、否応なしに過去へ落ちていく。無性に誰かに会いたくなる。誰かわからない旋律に吐きそうになる。人恋しいくせに人の中へ出ると身じろぎも呼吸もできないのはわかっているのに。春から夏へ、萌黄と薄紅の点描が光の粒で揺れ動き、世界は生の律動に満ちているというのに。その音の調和が自分と自分でないものの境界線を曖昧にさせる。ゆらりと目を細める。それはあの人の表情の真似だったと気づく。
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空の状態であって、起こってる現象じゃないんだって。
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