実家に電話する。ということを、すっかりしなくなったな、そういえば。震えるような呼び出し音が耳元だけで鳴っている。あちらでは本当に震えているかもしれない。母ではなく、携帯電話が。あ。
一瞬、音がなくなる。
出かけてなかったんだから、家に電話をくれてよかったのに。開口一番。自分の都合をいう母に知らんよと思う間もなくシランヨが口から飛びでる。何かあったの。を枕詞にしてどんどん喋りはじめる母を遮ると、枕詞ってそういうことじゃないでしょと訂正される。シランヨ再び。
ところで本題、墓はどうなっているか。
田舎のことで幾分おおらかでもあった子ども時分、庭に積んだ小さな石の塔。父の拵えてくれた木板の雨除けにちんまり囲まれて、祠となったそれに向かい、掌を合わせたものだった。なぜ、あんなにも毎日拝んだのだっけ。
一瞬、音がなくなる。
この前、少し崩れていたけど大丈夫。と電話口に膜が張られたみたいに急にくぐもって聞こえる母の声が、何かあったのかと尋ねてくる。
あの祠が気懸りになったのは。なんだっけ。
細胞が安定しないような心地。
手元にある、覚えのない招待状。