春のようでいて春には早いような晴れの日は、陽射しはともかくとして、風が首筋を撫でていくたびにまだ肌寒く、ただ、桜の花が心なし凜と感じられるのはそのせいであるかもしれなかった。
晴れのようでいて晴れとは言い切れぬような春の日は、撫でる風は温いとしても、空の翳りに覆われるたび心鈍く、ただ、散った桜を愛しく感ずることのできるのはそのせいであるかもしれなかった。
それか、寺社の奥に立ち並ぶ墓を目にしたせいかもしれなかった。
君を連れていったのは、群雲であったかもしれなかった。
手元に残った、そんな名の、君の書きかけの掌編を繰り返し読んだのだった。
後日の君から話、実際のそれは想像と違ったらしく、どうしてあなたは昔から辞書を引かないのか、と叱られた。言葉を知らないと伝わらない、と寂しそうでもあった。
ただ、ぼんやりとした春に立つこの体を呑み込み、君のところに連れてきたのは、やはり群雲という名の何かであったかもしれない、と思った。
花の散る、春のような、晴れのような。
移ろい、じきに、初夏となる。