月は所詮、太陽の光を反射しているに過ぎないのだ。
太陽がそう言って蔑むので、月はどうにかならないものかと随分頭を悩ませた。
男はある晩、ぽつんと降ってきた小さな石にぶつかった。
月は、明るく輝く自分を想像した。
男は人に悟られぬよう、幾日かかけて、丈夫な弓と矢を用意した。
おまえの得意の弓で月に火矢をとどけたならきっと願いを叶えよう、と月がぼんやり輝いて男を唆した。
男は、同じ村のやさしくうつくしい娘に恋をしていた。
そして、山の頂上でこっそり、矢を放った。
矢は、火をつけたまま月にとどいて、夜がなくなった。
炎はごうごうと広がり、たしかに燃える自分の姿を見て月は満足していた。
月は、男の願いなど叶えなかった。
けれど、二日もすると炎はすっかり消えてしまった。
月は黒くくすぶりながら、また男を呼んだ。
今度こそ願いを叶えてやるから、と言うと男は、悲しい顔をした。
静かに綺麗に空に浮いている月が好きだったのだけど、と、やさしく寂しそうに微笑うあの人を見たんだと言った彼は、まあ、なんとかやってみるよ、と背を向けて去っていった。
それから月は大人しいけれど、時々、明るく燃えさかる自分を静かに空想しては、ぼんやりとすることがある。