畑の作物を盗む者がある。爪痕で分かる。小鬼である。
小鬼の触れた作物は病になるという。
まったく迷惑な話で、罠を仕掛けるのだが、存外に頭が回るようで捕らえられない。
辛抱強く夜の闇に紛れ込み、待つ。待つ。待つ。
わずかに音の変化があり、影の動くのが見える。影は、複数ある。
ばらばらに畑を移動する影が、どういうわけか、やがて一つの苗に集まる。
銃声が轟く。
カラスが喚きながら、数羽飛び立った。
引き金には指を掛けたまま、ゆっくりと立ち上がり近づく自分の足音がやけに耳に残る。
果たして、小鬼を仕留めることはできなかった。
その場に落とされた果実は、土の上で崩れていた。
小鬼の触れた作物は病になるという。
少し離れた枝で羽を休めながら、相変わらず邪魔な小鬼どもめ、とカラスは思っていた。
そのくせ、不味そうなものばかり食べるのだ。阿呆ではなかろうか。
また畑に近づこうとするが、小鬼たちの眼がこちらを見ているようで、腹立ちまぎれにカアと鳴く。