贅沢は言わないので町をひとつ下さい。
その体に強大な力をもつ魔王の慎ましやかな望みを、わが国はむしろよろこんで受け入れた。
なにせ滅ぼされてはたまらない、抽選を行いいまの国に居残ることが出来るか否か、当選したのは彼女の住むところ以外すべての町で、もしかしたら二度と会えないのではないかと思い慌てて引っ越そうとしたけれど、そんなことはなかった。
彼はとてもよい町長であった。
魔王って。誰が。
というくらい、よすぎてやがてはほかの町よりいろいろはるかに抜きん出た。
町会費をもとに適度な観光施設をつくり景観はくずさず、けれど利潤を生み出す住みよい町。
これが魔力のなせる業か。
いつか国を乗っ取るのではと外ではもっぱらの噂だったが、彼女もその家族もそれ以外も
「町長さんに限ってそれはないない」
それはいいとして、ぼくと彼女が結婚できない仕組みになっているので参った。
国との面倒な取り決めがあったのらしい。
結婚しなくてもずっと一緒で、ちょくちょく会えばいいじゃない。
と言われて十年近く。
不老不死の町長の影響か、彼女たちがなかなか年をとらないのでぼくのほうが先に死にそうだなと思いつつ今日も彼女に会いにいく。