「あ。」
横で煎茶を飲んでいた婆さんが急に声をあげたので
「おう、どうしたぃ?」
爺さんが尋ねると、
「立った立った茶柱立った。」
と婆さんは嬉しそうにはしゃいだ。
「そりゃあいいこったけど、お前それを俺に言っちゃあ御利益がないじゃねえか」
爺さんは呆れたようで、しかし、少し楽しそうで。
「いいんですよ。夫婦なんだから。御利益御利益なむなむなむ…」
「なにわけのわかんないこと言ってやがんでぇ。」
爺さんと婆さんの間に茶柱の立った湯呑みが一つ、縁側の二人はしばらくそのまま、そうやって時間は過ぎていく。