みんな、どこかしらにそういうところがあって、それがひとつところにとどまらずに、しょっちゅうあちこちに移動しながら、ひとの体のうえを大きくなったり小さくなったりする様子は見てて面白いのだけど、ほかの誰かから同じ話は聞いたことがない。
ふたつ前の彼女はすこし変わっていて、僕の言うことをまるきり信じた。僕が言うのもなんだけど、正気をうたがった。
彼女は、むかしのかなしい話、つらい話をするのが好きで、ベッドの上でもよくしゃべった。そのとき肩のあたりで、あざみたいなそいつが嬉しそうに形を大きくするので舐めてやると、甘くてほろ苦くかった。彼女は喜んだ。
苦味のつよいのもあるし、むちゃくちゃ甘いのもある。と言うと、
「チョコレートみたい。」
苦いばかりのやつは、カカオ分が多いのよきっと。
へえ、そりゃすごい。
こういう変なちからは、女の子のほうが似合いそうなのに、と思った。
道行くひとたちの、顔や腕でぽつぽつと茶色い斑点なようなものが這い回っている。
いま隣にいる彼女には、たぶんカカオ90%くらいのやつがいて、味がわかったからって僕にそれを甘くできるわけじゃなし、やさしく舐めることしかできないけど、彼女が笑っているいまはまだ小さくなっておとなしい。