トラに乗って、会いに行ったような気がする。
遠くから見るとその塊は、誰も近付くことのできない緑の要塞みたいだった。
彼は、いつも優しく笑ってわたしを迎えてくれる。
その度にわたしは泣いて、彼はすこし悲しそうにする。
それからわたし達は黙って手をつないで、外から見るよりずっと色の溢れた世界をふたりきりで歩いた。
しらない花が咲いている。
食べたことのない果物に触れてみる。
動物園でしか見たことのない生き物に出会ったりする。
彼はわたしの右手をそっとひいて、鬱蒼と茂った林のあちらこちらを静かに案内してくれる。
こんなに生き物がいるところなのになぜか、音はまるでなかった。
わたし達も、まったく言葉を交わさなかった。
そうしているうちに、またさよならの時間になる。
彼が手を振った。
朝が来て、目が覚めた。
ちょっと行ってくるね、と言ったまま帰らなくなった彼は、やっぱりわたしといっしょには戻って来なかった。
全部をふたりで歩いてまわったら終わってしまうような気がするのだけれど、きっと今日もわたしは、見たこともないジャングルにいる彼に会いに行く。
彼の好きだったトラに乗って。
今夜はまだ会えると思う。