二階建てだと、ずっと思ってた。まさかうちに三階があったなんて。母は(してやったり)
というニヤリ顔をする。むかつく。
「いや内緒にしとく大した理由はなかったのよ」
「じゃあなんで今さら」
「幼いあんたらに教えたら、おもちゃぶちまけとか、ふすま破りとか、とにかくぐちゃぐちゃにしちゃうじゃん。だから分別のつく歳になるまで、と考えたまでさ」
まあ、それは分からんでもないけど、そんなに秘密にしときたかった三階って…
「見たい?」
「あたりまえよ」
「見てみる?」
「是非見たいよ」
母は、カラーボックスと壁の隙間に手を入れて、たぶん、レバーのようなのを引いた。少しおいて、こてこてと天井の一角が折れ曲がって階段が出現した。はあ、もし家出したお兄ちゃんが、このことを知ってたら喜んだろうなあ、といなくなった兄のことを思い出しながら階段を上ってみると、小ぎれいな和室があり、テーブルで兄が漫画を読んでいた。
「お兄ちゃん、家出したんじゃなかったの?」
「いや、ここに居てた」
久々にその夜は、家族そろってすき焼きをした。