幼心に、つかみどころのないひとだった。いまだ、あんなにふわふわしたひとで教師という仕事がよくつとまった、と思う。学校に限らず、およそ組織にいるのが不自然、とでもいうか。
先生の行方は知れない。蒸発だ駆け落ちだという噂も消え、なぜか今もどこかにいるような気はしている。
息をひきとるときは、少し苦しかった。
まあ、よく生きた。欲をいえば、急なことで、会えなかったひとがいるのが心残りではある。
燃され体を失って、少しの時間をかけ分解された私は大気に漏れ出でて、ああ先生、そこにいたのですか。と声をかけると、ようやく気が付いたねと笑われる。私たちの先生だよ。と宙に広がったかと思えば、幾千万の教師であり学友がいたことを知る。
いま、あぶくの教室から横目で、幼い君をひさしぶりに見ている。御祖父さんは、ふわふわしてよく分からぬひとでした。と述べられており失笑してしまい、先生に小言をいわれていたりする。