うちの温室には藤でできた椅子が吊るされている。子供の頃から決して近づいてはいけないときつく言われていた。やがて私も大人になり妻を娶った。妻にも温室の籐椅子には近づかないようにと忠告した。けれども妻は好奇心に抗えなかった。月の満ちる夜、妻が温室へ行くのを私は物陰から見ていた。私も好奇心に抗えなかったのだ。あの椅子に座るとどうなるのだろう。丸く卵のように編まれた椅子に妻が腰を下ろす。妻はその瞬間すっぽりと椅子の中へ落ち込み姿が見えなくなった。慌てて近寄ると、椅子はもはや椅子ではなく、藤でできた繭になっていた。あれから毎晩、私は温室に通っている。妻がどんな姿で生まれ出てくるのか楽しみで仕方がない。反面、心配なこともある。これがもし繭ではなくてウツボカズラであったら。妻はもう。