もうどうでもよくなって夜中に家を出て海に来てしまった。少し欠けた月が白々と水面に光を伸ばしている。あの道をたどると極楽へ行けるのだっけあぁあれは夕陽だっけなどととりとめもなく、靴を脱いで海へ向かうけど。冷たい。すぐに浜の奥に引っ込んで、やっぱりダメだ自分はここでこうしているのがお似合いだ、と岩みたいに膝を抱えて海を見ていた。ほんの数メートル向こうにも岩。だと思っていたのが人だと気づいたのも、月がほとんど真上に来る頃で、その人が立ち上がらなければ気づかなかったろう。その人は海に向かって愚痴をこぼし、愚痴は波にさらわれた。なにか透明な生き物が寄って来て、愚痴を喰べるたびにポウと青く光った。やがて「よし」と小さく言ってその人は町へ戻っていった。東の空はもう明るい。自分も立ち上がって砂を払い落とした。波打ち際には青く透けた石が打ち寄せられている。点々とつづく石を拾いながら、さくりさくりと朝の浜辺を歩いている。