よもぎ/鈴をつける のバックアップ(No.1)
読む 
妙に耳に残る鈴の音だった。いつも通る駅の構内。誰かのカバンにでも付いているのか、りりんりりんとそれほど遠くないところで聞こえる。あたりを見回してもそれらしい人が見当たらない。鈴の主を見つけてやろうと思ったのはほんのイタズラ心。りりんりりんと音が去っていく。追いかけなくちゃ。音だけをたよりに歩いていく。りりん、り。急に音が止まった。僕ははっとして柱の陰に隠れた。なんで隠れるんだ。鈴の音が振り向いたような気がした、なんてありえない。りりんりりん。また歩きだした。それにしてもどうして持ち主らしき人が見当たらないんだろう。音だけが僕の前を歩いていく。僕は柱の陰から踏み出して鈴の音を追った。りりりり。急に音が走り出した。気づかれた。僕も走った。階段を駆けおりて、角を曲がる。暗い通路だった。りぃん。鈴の音が遠くでうすく笑った。りりぃん。りりぃん。ゆっくりと誘うように前を歩いていく。僕はもうなにがなんだかふらりふらりついていく。
ジャンル 
カテゴリ 
この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第114回競作「鈴をつける」 / 参加作
執筆年 
2012年?
その他 
Counter: 703,
today: 1,
yesterday: 0