胡乱舎猫支店/小鬼の秘密
Last-modified: Sun, 20 Nov 2022 23:43:32 JST (847d)
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鬼が走っていた。森を抜けて開けた先に二人連れを見つけた彼は叫んだ。
「おおぉぉい待てぇぇえ」
鬼の地声の凄まじい威力に彼らは地面に突っ伏した。そして近づいた彼にやおら起き上がった片方が叫んだ。
「何すンでいっ!」
男鬼は消えそうな声で「すまん…」と言ったが女鬼は「ちったぁ加減せンね!大体…」と益々声を荒げた。
「おっ母もう良かンね、おっ父どしたンね?」
様子を見ていた子供が間に入った。
「あ…ああ忘れもンだ」
大事に握りしめていた掌には小さな角。
「どおりでほっかむりし易い思ぉた」照れ笑いをしながら手拭いを外した子供は額にちょんと角をつけて小鬼になった。
「すまんねぇ気づかんで」
急にしおらしくなった女房に男鬼は微笑むと来た道を戻って行った。
「気ぃつけてねぇぇ!」
あっという間に見えなくなった姿にその声は届いただろうか。
「お寺の皆、もう知っとぉにね」
呟いた子供に母親は眉をひそめて返した。
「用心に越した事ぁ無ぇ。それに今は他のもンもおるで…ああ…ホントに…大丈夫かねぇあン人」
「おっ父は強いンだよぉ!あンな奴らに負ンよ」
「知っとぉよ…」
女鬼は伏し目がちに微笑んだ。
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初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第189回競作「小鬼の秘密」 / 参加作
執筆年 
2022年?
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