胡乱舎猫支店/タルタルソース
Last-modified: Wed, 24 Jun 2020 23:40:22 JST (1538d)
読む
「味音痴って楽よ、結婚するならそういうのとがいいわ」
父の三回忌で久しぶりに帰った実家は一階がカフェになっていた。喪服の上にエプロンをつけた母はカウンターの中で珈琲を淹れながらそう言った。
この味音痴とは父のことらしいがちょっと違うと思った。彼は単に一つの味と言うかソースが大好きだっただけだ。
「こいつは何にでも合うんだ」と言いながら父は何にでもタルタルソースをかけた。それが白身魚のフライならまあ王道とも言えなくもないが、白身魚の刺身にも同様にたっぷりと。
母の子供の頃の夢は「食べ物屋さん」で実際料理の腕は良く、誰もが「いいお嫁さん」では無く「いい料理人」になれると言う程だった。夫が愛したソースを極めようと高級食材でマヨネーズから作ったり、スパイスに拘って本格的なものを作ろうとしていた様だが、結局父は市販のマヨネーズにゆで卵を混ぜたものしか受付なかった。玉子が美しく均等にダイスにカットされていたのはせめてもの抵抗だったのかもしれない。
「ホントに楽」
そう呟いて母がカウンターに食後の珈琲を置いた。揺らめく湯気を見てふと思った。
ーー父が死んだのは何でだっけ?
ジャンル
カテゴリ
この話が含まれたまとめ
評価/感想
初出/概要
超短篇・500文字の心臓 / 第160回競作「タルタルソース」 / 参加作
執筆年
2018年?
その他
Counter: 493,
today: 2,
yesterday: 0