胡乱舎猫支店/お願いします
Last-modified: Wed, 24 Jun 2020 23:33:08 JST (1185d)
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台風一過。屋上で眺める空は晴れ渡って濃い夏の色。月並みだけれど吸い込まれそうだ。うん、一年前に君がうっかり飛んでしまったのが納得できる。
その日置き去りにされた靴があった辺りにいると「お待たせ!」と君がやって来た。最後に会った時と変わっていないね。薄手のジャケットを脱いだら、しゅるんと生えた翼以外は。「上級者」は伸縮自在になるって本当なんだ。
「ふっふっふっ、いいよぉ涼しくて」背中に開けた服の穴を見せながら得意げに言う。少し陽に焼けた翼は綺麗に整った形で、まだ不格好な自分のとは大違いだ。
つい無口になったら「キミが同じになってくれてうれしい。」なんていきなり真顔で言い出すから「お…遅かれ早かれ皆なるよ」と返してしまった。
うん、相変わらず気のきいたことは言えない。
「そろそろ、行こっか?」君が切り出した。
「うん。」
「あ、靴は脱がなくていいよ。」
「…そういえば何で脱いで行ったの?」
「なんとなく。飛ぶのにいらないかなって」
「後で困っただろ?」
「困った…ついでにキミは片付けてくれちゃったし。」
「ええ?ごめん…そんなつもりじゃ…」
「よし、行こう!見本みせるね。」
「お願いします。」
フェンスに手をかける。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第140回競作「お願いします」 / 参加作
執筆年 
2015年?
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