海音寺ジョー/川を下る
Last-modified: Wed, 26 Aug 2020 22:51:11 JST (1010d)
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電車で川を下る。川の真ん中に線路が通ってるのだ。中州に街があり、駅で降りる。広い川だ。両岸は霞んで見えない。街には映画館がある。今日は映画を観に来たのだ。
上映しているのは、大昔に流行った自転車を盗むおっさんの話や、雨にずぶ濡れになるおっさんの話といった、白黒の作品ばかりだ。コインでチケットを買う。大きく幅を取って、列に並ぶ。湿気で額に汗が湧くが、館内は空調が効いていて、さっと眼鏡が曇った。
今日、観に来たのは喜劇だ。とても粋がりなおっさんが、田舎出の少女にちょっかいをかけ、逆に少女にさんざんにやり込められる爽快な話だった。
時々眼鏡を拭きながら、食い入るように観た。映画館を出たら、日が暮れていた。映画は結局おっさんにとってのハッピーエンドで、周りを取り囲む人々から祝福されるおっさんの、成婚の是非について狂おしく悩みながら、帰りの電車を待った。待ってる間にホームのアーク灯がぽっぽっと点り、落ち着きを取り戻した。
上りの電車が来た。
ジャンル 
川、街、鉄道、映画館?、白黒?、眼鏡、オッサン、少女、ファンタジー
カテゴリ 
この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第177回競作「川を下る」 / 参加作
執筆年 
2020年?
その他 
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